『サッカー』チリ対ペルーからみるナショナリズム

もう一ヶ月も前のことだが、

ワールドカップ南米予選、チリ対ペルーを現地観戦してきた。

日本にいた時から、「チリとペルーは滅茶苦茶仲が悪くて、日本と韓国なんて可愛いもんだよ」とよく噂を聞いていた。

チリとペルーは隣の国同士で、150年ほど前に領土を争った戦争をした歴史がある。

文化的背景も近く、仲が悪くなる要素はしっかりある。近隣国仲悪いあるあるだ。

実際チリに来て、チリ人とペルー人の会話を聞いていると、お互いを意識しているライバル関係的発言が多い。

「チリ人に腕のいい料理人はいない」だの、「こっちの国のスペイン語の方が綺麗なスペイン語だ」とかとにかくお互いの悪口を言い合っている。

ヒートアップしすぎて、冗談交じりの口論からちょっとした喧嘩に移り変わる現場を目撃したことも一度や二度のことではない。

「ところでお前はどう思う?(どっちの味方なんだ?」なんて、無茶振りされて、あたふたすることもしばしばある。

勘弁してくれよ。

「どっちでもいいわ。」

なんて当然言えず、お得意の「ヘラヘラ」でなんとかその場を凌いでいる。

そんなライバル関係にある両国。

ぜひともそんな国同士のサッカーの試合が見たいということで、

南米に来てやりたかったことの一つ、チリ対ペルーを生観戦することができた。

入場前にガードマンから上着を脱ぐよう指示され、チリかペルーどちらのユニフォームを着ているか確認された。

そのくらい、チリサポーターとペルーサポーターを隔離するくらい熱狂的なのだ。

一番驚いたことは、

アウェイチーム側、ペルー代表のメンバー発表だった。

ペルーの選手が場内にアナウンスされるたびに、『Conche de tu madre!!!』とホームチーム側チリサポーターから、

冷やかしのチャントが叫ばれていた。

直訳すると、『お前の母ちゃんの〇〇〇』

驚くことに、老若男女問わず全員が叫んでいる。しかもペルーの選手が紹介されるたびに。(ということは11回アレを叫ぶことになる)

いやいや隣に小学生の娘がいるのに親父がそれ叫ぶか???ん?いやいや小学生の女の子も叫んでるわ!!とか、

デートでで試合観戦なんて羨ましいなと思っていた隣の若いカップルも二人してアレを叫んでいる!!!!

はたまた、紳士そうなおじいちゃんも若いやつに負けずと、叫ぶ。

まったくもって信じられない光景がそこには広がっていた。

想像してほしい。

日本に無理やり当てはめるとするならば、

ワールドカップ出場をきめる、アジア最終予選の日本対韓国。

試合会場は都心にある日本が世界に誇る、最新鋭のスタジアム、新国立競技場。

文字通り絶対に負けられない運命の試合前の場内アナウンスで、

「韓国代表背番号7番!ソンフンミン!!!」とアナウンスされた後に、

日本のサポーター、老若男女が一斉に、

『お前の母ちゃんの〇〇〇!!!!』

と韓国の選手を煽るようなものである。

全く想像できない。

日本でこんなこと冗談でも韓国に向けて言ったらどうなることやら。

彼ら南米人の、この国同士の煽りをどこまで本気なのか、どこまで冗談なのか、

日本人の俺には理解が及ばない。

サッカーの試合を、戦争に置き換えて、疑似戦争と捉えて自らの愛国心を持って敵国に罵声を浴びせることに、

ある種の快感を覚えているのではないだろうかと邪推する。

戦争は出来ないけど、その代わりにサッカーでナショナリズム的な国民の一体感を楽しんでいるのではないか。

ついこのあいだも、職場のペルー人のおばちゃんに、

「彼女にするならペルーの女の方が良いよ。『Chilena es loca』チリの女は頭がおかしいから」と、

ただのジョークなのか、はたまたあながち冗談ではない本音なのかを察することはできなかった。

単純に楽しいから隣国をからかう発言をしているのか、

かなり溝の深い差別的な意図があるのかは、チリに半年だけ住んでいる日本人の俺には到底理解が及ばない世界である。

悲しいことに、日本生まれ日本育ちの俺にはこの世界観は一生理解できない領域のような気がしている。

ただもし仮に、ただ単に楽しいからの理由であるならば、平和的で良い冗談だと俺は思う。

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